「ドラえもんだらけ」
- ドラえもんのある回に「ドラえもんだらけ」というエピソードがある。
- なんの理由だったか忘れたが、のび太の宿題を代わりにやる事になったドラえもんが、タイムマシンを使って「4時間後の自分」や「8時間後の自分」を連れてきて、宿題を手伝ってもらうという話だ。
まあ、このエピソードではドラえもん同士が喧嘩して宿題はスムーズに進まないのだけど、なんとも夢があるエピソードだと思う。
自分の業務も忙しい時期と余裕がある時期に波があるので、未来の自分に業務を手伝ってもらいたいものだ。
銀行という魔法
さて、タイムマシンは存在しないので、未来の自分に業務を手伝ってもらう事はできないが、それに近い仕組みならすでにある。いや、タイムマシンよりももっと凄い効果を持つものが、ずっと昔からある。
それは銀行による貸金である。
例えば、
- ある会社が1億円かかる大型の設備投資をしたくなったとする。
- その設備投資により毎年2千万円の追加収入を見込む事が出き、投資は5年間で回収できる予定である。
- しかし、残念ならが現時点で1億円のキャッシュを準備する事は出来ない。
この話は本来なら「この投資は今は出来ない」となって終了だ。 しかし、ここに銀行が登場して、1億円の貸付を行えば設備投資が可能になる。 まず、お金を借りて設備投資をして、その後、借り入れを返済して行けば良い。
未来に発生する収益に、過去にさかのぼって仕事をして貰う、という事である。
さて、話はこれだけで終わらない。
銀行からの借り入れは、単に投資の後払いを可能にするだけでは無い。
- もし設備投資に1億円では無く2億円を投じる事で収入も2倍になると言う予測があり、それを銀行も信用するのであれば、2億円を借りる事も出来る。
- 信用によって収入を2倍に伸ばすことが出来るのである。
- いや、もっと投資するともっと収入が増える見込みがあるなら、もっと借りる事が出来て、もっと収入を伸ばす事もできるのだ。
- 信用があれば資本にレバレッジが効くのである。
株式による資金調達も原理は同じである。
「単位期間あたりの投資額が、現時点で持っているキャッシュの額に制約される」というボトルネックを緩めてやる事が、非常に大きなメリットをもたらす事がある。
共通性
さて、「ドラえもんだらけ」と「銀行からお金を借りて行う設備投資」にはどんな共通性があるだろうか。
私はそれを、長い時間の中に負荷を分散(=平準化)させることで、ボトルネックを緩める事だと解釈している。
- 銀行であれば「今持っている額以上の投資は出来ない」というボトルネックを、後払いによって解除する。
- ドラえもんであれば「一晩で終わらせる事ができる宿題の量に限りがある」というボトルネックを、未来の自分と作業分担で解除しようとしている。
未来から借り入れを行った場合、利息によって支払う合計額は増えているが、これはボトルネックではないので重大な問題ではない。
未来から来たドラえもんだって、新たな作業負担を被るが、暇なタイミングの自分を呼んでくれば良かったのだ。
ボトルネックを緩めるためには、非ボトルネックは多少は犠牲にして良いのだ。
もっと違った形の負荷平準化
さて、ここまでの議論で「長い時間の中に負荷を平準化させる」ことで物事がうまくいくケースがあり、負荷を平準化させるためには多少の対価を支払っても良いと言うパターンが見えてきた。
このパターンには様々な親戚が居る。
例えば「統計多重効果」だ。
(http://www.soi.wide.ad.jp/class/20040021/slides/06/14.htmlより)
これは例えば、AWSのEC2に代表されるクラウドコンピューティングから高い費用対効果を得られる原理だ。
つまり、CPU使用率のピークタイムが異なる様々なコンピューターリソースを束ねることで、CPU使用率の推移を示すグラフはピークが取れてよりなだらかな曲線を描くようになっていく。これは、ピークタイムが異なる物を束ねることでより稼働率を上げる、つまり設備が余すこと無く使い切られた状態に近づいて費用対効果を高める効果が得られる事を示している。
他にもまだ親戚は居る。 例えば「保険」だ。保険は、加入者の内ごく少数に発生する不幸で巨大な負担を、加入者全員が分散して負担する仕組みだ。 1加入者が負担できる負荷の最大値は小さいものだが、それを大人数の加入者で薄める事で、少なくても金銭的影響は最小限に抑える事が出来る。
最大の負荷がボトルネックになる時は、負荷を平準化して散らしてやれば良い。というパターンが見えてくる。
まとめ
- 「負荷を平準化する」ことで驚くようなメリットが出る事がある。
- なぜ価値が生まれるかと言うと、負荷の総量ではなく負荷のピーク時の大きさがボトルネックになっており、負荷の平準化によってそのボトルネックが緩むからである。
書き残した事
あまり整理出来ていないが、「負荷平準化の逆」というのもあると思う。
これは特に軍事の世界で良く登場している。
例えば、
または、
アメリカ海兵隊のドクトリンに出てくる「戦力を時間的に集中して投下する事で、敵の指揮命令能力をパンクさせる」というのも似たような物だろう。ランチェスター戦略における「局所優勢」の考え方や、「ダンピング」による競合他社の排除もこのパターンに当てはまるかも知れない。
与えた負荷の総量が問題なのではなく、短い時間だけで良いから敵の対処能力を上回る負荷をかけるのが重要という事なんだろう。